自分巡り 其ノ伍 もう一人の私
八咫烏の信者の所を後にして次の自分を求めて歩いていたが、どれだけ歩いても次の場所にたどり着かない。道中見つけたコンクリートの小屋を見つけて入る。
「そろそろ来ると思ってたよ」
「舞…貴様か…」
そこには現在も活動しているもう一人の私がいた。日比谷 舞。嫌いではないがあまり出て欲しくない人格だ。無論、男である。
「私達は道半ばだが、道半ばであるからこそ来た道を振り返るのはいい事だと思って君を招待したんだよ」
「キツいジョークを続けるならその口から二度とジョークが出ないようにしてやる」
「自分を傷つけるのやめなよ」
「傷そのものが言うことじゃない」
「傷といえばだけど。八咫烏の為に行動出来たり、あの後輩にご執心になれるのだから傷は少し癒えたのかな?」
「傷を覆い隠しただけだ」
「傷を隠すためとはいえ、君が後輩キャラを好きというなんてねぇ…ららマジがそうさせたのかな?」
「いい加減にしろ…!」
「殺してもいいのかな?殺したら自己崩壊を起こすよ?自我崩壊じゃなくて自己崩壊だからね?」
「もう自己崩壊したいところだ」
これ以上は無駄だと自分に言い聞かせて用意されていた紅茶に手を出してから話を再開する。
「お前は見ただろう。私の故郷も聖地も」
「見たよ」
「何も感じなかったか」
「何も?」
「お前は本当に私なのか?」
「考えなよ、私は君の女化願望の具現化。君が武蔵小金井や東大和に初めて何かを感じた時に君は「目覚め」ていないからね?」
「たしかに、ららマジ初めの頃はまだそんなこと思ってなかったが。だからこそお前も私と同じ感覚を持っているんじゃないか?」
「残念。武蔵小金井への想いは地縛霊の武蔵として現実に具現化したでしょ。東大和への想いはチューナーに託して君が沈めたでしょ。私が生み出された時には君自身には何も残っていなかった」
「私のコピーの想いを私は感じ取れるがコピーはコピーと感情を共有できないという訳か…」
「だから私は空っぽ。Void,Vacant,All of nothig」
「お前が表人格になるまであと数年かかりそうだ」
「じゃあ私はそれまで可愛さに磨きをかけることにしよっかな」
「その頃に自我崩壊を起こしていても恨んでくれるなよ」
今となっては何故こいつが生み出されたのか分からない。今の私にはこいつは必要ないから考える必要も無い。
炎燃え盛る道を歩き、見えぬ神に思い馳せ、永遠が終わりを迎えるその時まで私は後戻りしないと決めたのだ。この道無き道を突き進んでいくのだ。
そのためにはあいつは邪魔になる。誰かが傍にいれば、炎の温もりを感じられない。それを感じられなければここを歩く意味は無い。
覚悟ある者にのみ世界の扉は再び開くと信じている。