I and I ひとりじゃないと信じさせてくれ

ある日、私の中のもう一人の人格である舞が話しかけてきた。

「もし自分の中に眠るもう一人の自分が伝承とか物語の登場人物の姿を成して現れるとしたら、どんなのだと思う?」と。

私の咄嗟の考えで浮かんだのは。

「ソロモン王、マランドリーノ、ジャンヌ・ダルクブリュンヒルデとか…?」

「理由とかはあるの?」

「純粋に私が敬愛している人達だ」

するともう一人の人格である九重もやってきた。

「コイツのことだから色を失った自分が現れてソイツがアレキシサイミアとか名乗る可能性だって…」

「抉るな。ASDが出てきそうだ」

「あぁ、ASDがもう一人のアンタでも信じるわ。PTSDでもいい」

「あのだなぁ…」

 

そもそも舞が私にそのような質問を持ちかけたのは私が怒りや憎しみを断ち切るために何らかのアプローチで記憶を破壊しようとしたことに起因するらしい。

なるほど。人格乖離後の人格衝突による自己崩壊。確かに合理的だ。人格と精神を破壊してしまえば苦しむ必要は無い。人の体を持つ故の苦しみから逃れられぬ私を解放したい。

叶うならば私は今、命を断ちたいくらいなのだ。

あれほど愛していたものを憎み、それをする自分に腹が立ち、哀しみと共にぐるぐると回る。そんなのが三ヶ月も続いている。

ともなれば舞が異常を察知して破壊行動に出るのはよく分かる。

九重は私が激しい音楽を聞くことで一時的に苦しみから開放されるように促してくれていたようだが、それも非常にありがたい。音楽を聴いてストレスが消えないなら何をやっても無駄な証拠だ。

そしてまだ過去の私が完全に死んでいないと仮定するなら。彼は本当に素晴らしい仕事をやってのけた。魔法を引き寄せて私に衝突させた。夢と魔法の観測者ゆえ、私の自己は魔法と親和性が高い。幸せな過去を追体験することで異常という現状を正常という殻で覆ってしまおうというのだ。

三者三葉のアプローチで私を救おうとしてくれるのは嬉しいが、迷惑でもある。

なぜなら、私の怒りも憎しみも私だけのものだから。

きっと過去の私は制服に身を包み、赤地に黒字で「D.E.A.D. M.A.G.I.C.」の腕章を着けて過去へ遡り死ぬ気で魔法を引っ張ってきたんだ。そうでないなら「D.E.A.D. D.O.G.」か。

過去は死者の往く場所。生者である私は過去には往けない。

いずれ私を破壊するものが現れるなら、マランドリーノだと嬉しい。彼の生き方は好きだ。