不眠症再び
そろそろ何が正しいのか分からなくなってきた。
明るい町には暗雲がやって来たし、不夜城は沈んだ。誰も女神を信じていないし、扇動された愚衆が攻めてくる。
着てるコートは雨で濡れたし、夜風が冷たくない。時間が進んで、時代が移り代わって、皆はそれに着いて行ってる。気がする。
そこかしこを見渡しても私だけが取り残されているような気がしてならない。私だけが取り残されていると思っているが、あの人達からすると私だけが何処かに向かっているように見えるのだろうか。
だとすると何処なのだろう。
私はどこ向かって逆行しているのだろう。
過去の故郷とか、海の底とか、獣の牙城か。
自分の救いは分からないが、まだ私は覚えている。誰かの救いを。
その三文字は私を縛る鎖であると同時に、誰かの心を解放する鍵だ。
私が囚われている限り誰かが幸せになれる。そう考えれば私が今こうして地獄のような思いで生きていることにも意味を見いだせるだろう。
恐ろしいことだ。
まだ二年も経ってない。
地獄から二年も。
私はまだ呪いから解かれることなく、星降る夜に眠れずにいる。
そろそろ初夏の風が吹き始める。
しかしそれは私に底知れない恐怖と焦燥を思い出させるのだ。