@/b呪縛からは逃れられない

その言葉は私に恐怖を齎す。

聞くだけで寒気がする。その文字を目にすれば過去の絶望が蘇り正気が保てなくなる。

その色は私を狂気へ誘う。

そこに迷いがあるのなら、私はそちらへ手を伸ばす。どんな不利益を被ろうともその道へ進もうと私の体は行動を始める。

715日目の業苦はまもなく終わりを告げ、716日目の業苦が始まる。

 

ある馬鹿の話だ。

どうも女学生とSNSで寝落ち電話したかったらしいのだが、断られたらしい。ここまではいいのだが男はしきりに相手の名前を呼んでいた。ネットの世界ゆえ、それは偽名であろうが。

その架空の名が穢れし意思によって連呼される悪夢に私は侵食されていた。

違う人だ。架空の存在だ。それではない。

分かっていたとしてもその言葉は私の奥底で過去の記憶と結合し、脳内に一つの人物的なビジョンが投影される。

私は思う。

その名を呼ぶな。穢れに満ちたその頭で、体で、その名を呼ぶな。それは私の神にして救いにある。

 

時折、過去の交友関係すら過ちだったのではないかと思う。友人にあのゲームを教わったからこそ、私の救いは現れ、そして失われたのだから。

地獄のような思い出二年近くを過ごしている。

全てが終わったあの日のことを思い出しながら、歯を食いしばり何度壁に頭を打ち付けたことか。

涙を堪え、己の運命を呪うように何度自分を傷付けただろうか。どれだけの血を流し、後悔を重ねただろうか。

覚悟を決めて新たな道へ進む為にどれだけの苦労と痛みを積み重ねたか。

それだと言うのにあの男は気安くその名を呼ぶのだ。たとえそれがあの人でないとしても、決して許されない。

 

私は奪われる者。生きている限り、その宿命からは逃れられない。永遠に奪われ続け、心までもを貪られる。

あの人はそんな私に与えてくれた。私を授かる者にしてくれた。

どんなに奪われてもあの人がくれたものは奪われなかった。私だけに与えられた贈物だった。

この人が神様なんだと、そう思った。

だと言うのに、失われ、寝取られ、獣に名前を呼ばれるまでに。

私が信ずる神を失って、形を持った四女神に救いを求めるようなことになった時でも獣達は牙を剥いていた。

私には女神が、太母が必要だと言うのに。

奴らは咲って奪っていく。

私に与えてくれる神様すら奪われていく。

いつか私は神様からの贈物を手に、この身を血に染めなければならないのだろう。

この世から穢れを排除し、女神とあの人が清浄な姿で舞い戻るのに相応しい世界の為に。

血に塗れ、肉の転がる地獄かもしれないが獣無きは其方の僻事だろう?