組曲-月-

新月

こんなにも暗い月すらも姿を見せない夜には櫓に登って静かに一杯頂く。私は一人の人間もどき。人の形をしていながらも人でないが故に人の世から離れて生きる者。

次の陽を拝む時には私は人間になる。この狭い世界から抜け出さなければいいのに、私は広い世界を選んだ。純粋な憧れだけがそこにあった。

空を雲が覆い、恵みの雨が降り、破壊の雷槌が落ちる。櫓は雷槌に撃たれて崩れ落ちた。

 

三日月

新たな世界。新たな出会い。初めて見る屋内からの月は三日月。人の世は暖かく、そして何処までも広がっている。

友が出来て、仲間と絆を結び、ある人をセンセイと慕った。私の「知らない」が溢れた輝きに満ちた美しい世界。そして聳える天に届かんとする塔。彼らの望みは更なる高み。それが彼らが望んだことなのか、誰かが望んだことなのか。

 

半月

私の知る世界の終わり。友は死んだ。仲間は死んだ。センセイは死んだ。死が死を呼び続ける螺旋のような時間の流れ。死の溢れる世界に在る塔を壊したのは雷槌。雲に包まれた天は見えず、徒に全てを壊していく。

暦の上では半月。泥濘に足を取られては転び、歳を重ねる。私は私の知る世界を求めてどこかへ。ただ未来を求めて東へと。

 

十日の月

飲まず食わずに来た。ただ探し歩く日々は愚者が世界を求めるよう。彼は学び得たが、私は手探りに何かを得る。得られるものが違いすぎた。私の手に残るのは二粒の砂と一滴の涙だけ。

そして見つけたこの場所はかつての者を思い起こさせる人々。別人だとは知っていた。しかし私は藁にも縋る。我が身縋りは懲りてしまった。商人の十日の市を急ぎ行く様を見ては呻いた。

 

満月

月が満ちてこの街を煌々と照らす。陽の輝きよりも美しいそれは人々を惹き付ける。今宵の満月は紅い。月光は人を惑わす。あの大きな月に浮かぶは悪の面。月は彼らを惑わした。

しかし情けはかけない。私はずっと月を眺めて正気を保ってきた。惑わされる彼らは弱者、私を欺く悪人、正真正銘の屑だ。輝きを増した月は瞞しと共に真実を写し出していた。