高貴なる死を讃えて

『例え道無き道歩むことになろうとも やり遂げるまでは突き進んで行く 後戻りなどしない 私達は諦めない』

この世界は本当の世界ではないのではないだろうか。その証拠に私の周りには私に憎しみを抱かせるものが山のようにある。あの騎士が、あの男が、奴らが、全てが憎い。

憎しみは私の心の底から湧き出て心臓を溶かしながら私の口から吐き出される。何度も何度も吐いて喉も口も荒れて水すら飲めない。

きっとこの世界は何処かの大きな世界の中の管理された小さな世界なのではないか。だから私は自らの精神と共にこの世界からの脱出を計画した。

しかしそれには邪魔が入る。あの騎士「アーヴァタール」だ。

 

私には嘗て精神を分けた騎士がいる。その男は「Avatar」という私の分身という意味の名を背負っていた。

しかしAvatarのいた世界は崩壊を迎えた。

そしてその世界は生まれ変わった。いや、正確にはAvatarのいた世界をコピーした紛い物が生まれ、その世界が本当の世界になった。

『怒りを洗い流してくれ 私は立ち続ける 暖かく優しい雨の中に 降り注ぐ滴は 静かに地に落ちる
悲しみを洗い流し 時の染みを洗い流し 記憶は失われ 心は乾いていく 泥濘へと沈んでいく
平和な生活へと やがて来る 苦しみの洪水のように 私に降り注ぎ 止むことはない 終焉の時まで
やがて来る 暗黒の日に 私の最期の時に 絶対に止まない 暗雲が晴れるまで 夢が消えるまで』

あの騎士が憎い。私からセンセイや友や仲間たちを奪い、本当の世界を否定した騎士が、その騎士を支持した民衆が憎い。この愚衆共が…。

そう、私の怒りや憎しみは偽りの世界に降る雨に洗い流され、私は世界の底へと沈んでいくのだ。

それは避けなければならない。幸いにもAvatarには世界を修復する力があった。Avatarが存在しているためかつての世界を作り直すことが出来た。しかしAvatarの能力であるため、私の心の中でしか修復ができない。

それでいい。私は自身の心の中のAvatarと融合を果たし、天魔シェムハザとしてアーヴァタールを討つ。そしてこの世界の東京を犠牲に差し出す。

魔神王ソロモンを召喚し、72柱の悪魔による東京大虐殺が始まるのだ。悲鳴や怒号が飛び交い、血肉が飛び散り、街が燃える。

そして私は死を迎え、本当の世界に到達する。

その時まで震え、ナイフを携え籠るといいアーヴァタールよ。