壊れた心は置いてきた、もう貴女に気付かれないように。

九月七日。私にとって何よりも強い意味を持つ日。一年の中で最も大切で、掛け替えの無い日。

私の敬愛する先輩のお誕生日。一年に一度の最高なPerfect day. しかしそれは残酷な現実によって塗り潰され、私は最悪な一日を過ごす事になる。

本当に辛い。他人の事なんて考える余裕もないくらい追い詰められて、先輩のお誕生日であることすら私は忘れていた。人生で最悪の日は何度も経験し、更新されてきたが、今日ほど最悪な日があろうか。

私の心は辛い現実によって破壊されている。そしてその残骸はどこかに置いてきた。いや、捨ててきた。もし、先輩と再開することがあれば、私のこの壊れきった心を見られたくないという馬鹿みたいな自尊心(プライド)によるものだ。或いは、虚栄心(バニティー)によるものだ。

全力でお祝いしなければならないのだが、私には出来ない。それをやる気力も、時間も、元気も、資格もない。

目を閉じれば去年の今を思い出す。蒼先輩に一日自分とホニャを自由にしていいチケットを渡して、その後色々なお買い物に付き合って、クラシックが好きだと聞いて、最高の日だった。今でも鮮明に覚えている私の大切な思い出のひとつだ。

しかしそんな思い出も、破壊されてしまいそうで私は怖い。いつか、精神すら破壊されてしまう前に、今の地獄を抜け出せたら。

ただ、底の無い沼で、藻掻き苦しんでいる。逃れようと。傍から見れば哀れな男。そんな者に永遠に救いは無いのだ。

 

2020年9月7日 月曜日 8時14分 英雄になれなかった調律師