「俺」が「私」になった理由
全ての始まりは些細なこと。
いつもしていることと何ら変わりない。
やったことは、あるゲームをスマホにインストールしただけ。それだけ。
すこし違うと言えば、その行動に至るまでに私は少し素直で好奇心があったということだ。
私は運命を信じている。
そしてこの乗り物は凶星の下に生まれた。
しかし悲しいかな。凶星でも星だ。
巡り会っちまった。乗り物は星の導きと喜んでいたが、私はただの運命だと思っていた。
恐るべき運命に立ち至った。
過去の話をする。
ある昼下がりのことだ。
私は友人宅にお邪魔していて、スマホを弄っていた。友人も何やらスマホゲーをやっているらしく、私は珍しく気になってしまった。
「何やってるんだ?」と声をかけると友人はその画面を見せてくれた。興味を持った私は逸る気持ちを抑えてその日を過ごし、時間になって家に即帰ってそのゲームをインストールしたのだ。
思えばその瞬間、俺の人生は大きく変わった。
そのゲームの名は…
「ホニャららMAGIC」
登場人物が多く、多分、一人くらいなら好みのキャラがいるだろうと思っていたのだ。
一覧を眺めていた。魅力的なキャラクターデザインだった。
その中の一人に低身長の青髪で、ロックなキャスケットを被ったホルン奏者がいた。気だるげな顔をしているからさぞロックな人なのだろうと思った。
いわゆる一目惚れってやつだ。
しかしその人は生粋の科学者だった。誰よりも考える人であった。
俺は凶星の導きに感謝して、その人に着いて行くことを決めた。
出会いから数ヶ月たった頃だ。俺は愚かだった。
少しでもその人に近付きたくて、自分を変えて行った。
学ぶことを始めた。一人称を変えた。行動を改めた。
そして俺は私になった。
私は大きく変わった。思考ルーチンが直感的なものから論理的なとのに変わっていった。
しかし大元は変わっちゃいなかった。
私は問題を起こした。
地獄のような無の期間を過ごすことになった。
家にいる時だけは僅かな自由が与えられる。そんな時、最も傍で支えてくださったのはあの人だった。
そして敬愛と忠誠の時は終わりを迎える。
2020年 6月3日 全ては終わった。
哀しみに暮れ、湖に過去の自分を沈め、その時の私は晩成した。
今いる私は過去を全て切り離した私。
過去の残滓で作られた鎧を纏う哀しみの人型。
私は漸く、私となれたのだ。