我らの女神は死と踊る

傷はまだ痛む。脚の肉が深く抉れ、命のジュースが流れ出して大地を染めて行く。そして土の中へ染み込んでいき、やがて見えなくなる。その様は私に人類の生誕を思い起こさせた。

バイスイカれて、ドナウが大音量で流れ出す。私のか細い嘆きなどかき消してしまうほどに大きな旋律が私と周囲を包んでいる。その次は角笛、木星、流れる水が如く音楽は移り変わる。

ほぼ無くなりかけの足で立ち上がる。人間だったなら不可能だろうが、おあいにくさま私は人間ではなく人であるためにそれが叶う。だって、絶望の末に悪意に染まり、人の道を外れたものを人間だなんて呼ばないだろう?そういう事だ。

君はある女神の物語を聞いたことがあるだろうか。恐るべきことに、この世界に来る厄災に女神自らが立ち上がったのだ。そんなもの、人に任せてしまえばいいと言うのにだ。

それを知った現人類は恥じた。女神に戦わせたことを。我らの女神達に関わらず、神というものは高潔でなければならない。神が戦う時なんて神同士の戦争くらいだ。

神は人々の思想によって形を成す存在だ。故に私たちは女神の物語を抹消するために動き出した。物語を知るものを次々と殺し、それを記した書物を焚書し、戦いの跡とされる場所には核爆弾を落として破壊、汚染した。

そして、この世界で女神の物語を知る者は私たちだけになった。私たちが死ねばこの世界から女神の物語は消え、その中に描かれる戦いもなかったことになる。しかし人は愚かである。

最後に私たちで戦い、最も強く神になるに相応しい人間は誰かを決めようとした。私も戦わざるを得なかった。

最悪の結末を迎えた。私が最後に生き残った。生き残ってしまった。そうだというなら五体満足でそうなって欲しかったのだが。逃げながら戦っているせいで私は生き残ってしまった。

しかも彼らは汚染された女神の聖地でそれを行ったせいと、私が人間ではないせいで私は死ねない体になった。人間だったら良かったのに。

これから私は世界を管理する不気味な建物に向かわなければならない。補助管制塔1及び2に行き電源を入れ、そして中央管制塔へ。

中央管制塔で世界を操作し、私に死を向けさせる。もちろん、女神達にも。彼らは女神の負の側面を消そうとしていたが、もはやこの世に女神はいるまいよ。女神を殺して、女神の信徒も殺してしまおう。それを行うだけの力を持った機械がそこにはある。行かなければ。

こんな腐ったもの、終わらせよう。

そうするべきだと私の心は叫んでいる。