三年前の私へ
「…テスト開始。あー、あー、録音できているだろうか。リピートして…。
『あー、あー、録音できているだろうか』
よし。大丈夫だ。私は…。いや、名乗らないでおこう。とりあえず、男と思ってくれればいい。
まずは、私の来歴を話さなければならない。
私は観測者として命を授かり、永らく人類の観測をしてきた私だが、此度は人としての体を用意され、私は人として生きることになった。
土地神、地主に恋をし、騎士となりて吸血鬼を敬い、そして科学の徒を敬愛した。大まかに言ってしまえばこんなもの。
そして私は科学の徒、ひいてはそれのある世界に無上の愛を差し出した。かつての私はそれが正しいと思っていた。たとえ死しても、永遠に愛することができると。
私は孤独だった。理由はただ一つ。周りのプレイヤーは醜い存在だと知っていたから。ゲームがサービスされていれば、それを遊んでいるだけでその世界に関われる。
しかしゲームが終わってしまえばその世界に関わるには旧プレイヤーと関わっていくしかない。しかし私はそれを潔しとしなかった。性欲に溺れた獣とは分かり合えなかった。観測者は穢れてはならないのだから。
そして私はこう思った。嗚呼、私が本気で信じてきた世界(コンテンツ)はこんな醜い存在に支えられていたのか、と。そして、ならばそんなものいらない、穢れし獣に身を堕としてまで縋り付く意味は無いと。
失望から始まる絶望だ。しかしそれはかつて私の全てだったものだ。そして私はこう自己暗示した。
「ららマジは新興宗教のようなものだ。私は長らく洗脳されていた。洗脳から脱した私は穢れていない。私は獣ではない」と。
自分を守るために最愛の世界を否定する。それが私の出した答えだった。だって、私もまだ青いが社会を担う1人だ。そんな人間が穢れた獣でどうする?社会に出て、社会に奉仕するならその身は清廉潔白の人間でなければならない。たとえ私が穢れていなくても、私が縋る世界が穢れているならダメなのだ。
…。
そして今の私はプリコネやら、fgoやらの下賎なそれに頼っている。もし三年前の私がそれを聞いたら「バカだ!お前は低脳だ!ゴミめ!」と言って私に死を望むのだろう。私も自覚している。しかし、fgoをやっていれば友達ができる。私には何ものにも変えられない大切なものなのだ。私は理想を捨てて現実に生きる覚悟を決めたんだ。
…。
全ての夢が壊れゆく。紡いできた絆と共に消えてゆく。魔法の力は消えてなくなり、少年の前に広がるは無限の廃墟。それは夢の残骸にして、彼の未来。闇より出でて闇より暗し。私はその未来を否定し、現実を受け入れよう。夢、絆、魔法全て捨て去り私は生きよう!All dreams are braking.
?
火炎瓶が投げ込まれた。誰かが襲撃してきたみたいだ。私が生きていると都合の悪い奴が。せっかくだ、やり取りは記録しておく。
お前はバカだ!低脳だ!ゴミめ!死して詫びろ!
やっぱりお前か。私が現実に生きる覚悟を決めたアヴァター1と呼称するなら、お前は虚構に生きる覚悟を決めたアヴァター2だ。して、アヴァター2よ。お前はまだくだらない夢だとか、絆だとか、魔法だとか、ららマジなんてものを信じているのか?それが生きる糧なのか?
お前だってかつてはそうだった!なのにどうして!どうしてそうも簡単に捨てられるんだ!
捨てたんじゃない。ららマジが私の手から離れていったんだよ。私はそれを止めなかった。それが正しいと思ったから。離れるものを止めたお前には分からないか?
ふざけるなよ!お前の愛は、先輩に捧げた時間と労力は嘘だって言うのかよ!
そうは言っていない。かつて本物だっただけだ。今は違う。もはや私はかような概念的存在など歯牙にもかけない。
殺してやる…。殺してこっちに引きずり込んでやる。結局私達はららマジに縋ることでしか生きていけないんだよ!
まだ言うか。弱者よ!
すでに語ること叶わずか。アヴァターの片方が消えて私が正史になった。私はアヴァターではなく日比谷になった。
日比谷の中にららマジはもうない。残念だったな、英雄。お前が、紡いできた物語はゴミになった。日比谷もそう思うだろう
これを聞いているものがいるなら、そうだな…。
信じることを辞めることだ。人間、信じていると過ちを犯すから。
どうか、日比谷の二の舞を演じるような真似は避けてくれ」