絶望の星々に紛れ登る明けの明星

彼が私にこう言った。

「世界は広い。お前が心の殻を破り、その頭で知り、他人を認められるようになれば世界はどこまでも広がっている。逞しく生きて行きたくないか」と。

彼が私にこう言った。

「世界は広い。今の君のままでいい。ごらん、君の周りには愚か者しかいない。それだけじゃない、その先にもその先にも君の行く世界には愚か者しか居ないよ」と。

 

堕天使は私を見つめて再び口を開く。

「お前が行く先にあるものは真理と真実。この世界を理解しない愚か者がいたとしてもお前だけは真理にたどり着くことが出来る。誰かを認めて完全になるのはそれからでも遅くない」

白髪の男は背を向けながら言う。

「長い間苦しんできたんだね。僕が君の夢を叶えてあげよう。もう誰かを演じる必要は無くなるし、君は自由になれる。君が何からも傷つかないようにしてあげよう」と。

 

だから私は自分の意思を声にして

「堕天使よ、私を連れ出してくれないか」と言う。

私はこの転換点より自分を認める。今までより自分らしく、自分として生きる。言い換えるなら社会の敵として密かに生きることにする。それまではこの堕天使の後ろを歩こう。あと少しの時間だけ、守ってもらおう。

堕天使と離れたら、私の中の彼に永久なる安らかな眠りを届けに行こう。私の中に縛り付けられてしまった悲しい男を。私から分離したもう1人の私に安らぎを与え、光に横たえさせてやろう。

彼が眠れど私が大きく変わることは無いが、それでも彼を眠らせなければならない。私の代わりに大きな傷を負いながら必死に未来へ進む道を拓いた男に最大の敬意を表して。

心の片隅に残る恋心を墓標に水葬を。