奪われた世界の奪還

この世界は奪われてしまった。

前回この世界は本当の世界ではない。偽りの世界と言った。しかし私はこの世界に生きている為に私の世界の全てはこの世界だけだ。

そして考え直した。この世界にいる人々はある者に精神や意志を奪われていると。だから私は最後にこの世界の人々を救済したいと考えたのだ。私は破壊者かつ救世主になる。

こう考えるようになったのはとある夢を見たのがきっかけだ。

 

私は新宿駅にいる。南口から改札を出てパン屋で食糧を買い、道路側へ向かった。すると大きな地震が発生し、地面が割れてそこに多くの人が吸い込まれていった。勿論私も。

落ちた先にあったのは赤く染った世界。地獄のような東京だった。正気を取り戻すのに数刻かかった。気を確かにしてから私は何かおかしな所はないかと行動を始めた。

しばらく歩くと人々が同じ方向を見て、指を指し、注目している。民衆に釣られるように私もそちらを見ると都庁があったはずの場所に禍々しい異形の塔が立っていたのだ。

また、塔から道のようなものが地上に向かって伸びてくるのが見えた。代々木の方に伸びたそれを追う。電車は動いていないので走って向かう。

代々木公園にちょうど現れたそれの周りには人集りが出来ていた。私はそこから塔を眺めると歯軋りをして人々を薙ぎ倒しながら道を目指した。殴ったり、足をかけたりして次々と転ばせて障害を退けた。

そして私は道に足をかけて登り始めた。

民衆の注視が私に向いた。他の人も道を登り始めた。続いてくるようだ。私は道を登る毎に精神が強くなる感覚を覚えた。脳がフルに動き出して全知全能の神にでもなった気分になる。一割過ぎた辺りから私の頭の中から声が聞こえてきた。「私の無念を代行してくれ。頂上の男を討て。過去への尊敬を知らぬ愚者が建てたバベルを崩せ」と。

それと同時に私の中のもう一人が囁く。「民衆は操られている。私が力を貸そう。邪魔者は殺し、何としてでも頂上へ」と。

私の体は異形のソレに変化していく。獣の牙を生やし、無数の目を得て、全身が鱗に包まれる。後ろから追ってきた民衆がそろそろ追いついてくる。私はこの力を以て人を落とした。今は道の二割。この高さから落ちれば即死だろう。次々と人間が落ちては肉片になる。爽快だ。

 

登っては殺し、登っては殺し、そんなことを何日も続けて自分が自分であるかもわからなくなってきた頃ついに頂上にたどり着いた。

そこには仮面を被った騎士と女達。私は鱗を飛ばして群がるソレを全て殺した。次いで風を起こし死体を片付けた。この開けた天空に私と騎士の二人きり。私の頭だけが人間に戻り喋れるようになった。

「仮面を取れ…顔を見せろ…」

「俺だよ、「俺」」

その騎士の顔は私だった。そして確信した。こいつはアーヴァタールだと。私の姿は異形に戻り騎士と死闘を繰り広げた。最期に騎士は「表世界の多くの人間の意志を奪いここから支配していた。お前の報われなかったAvatarを俺は超えたのさ。勝つためには手段は選ばない」旨の事を伝えて死んだ。

私は表世界に翼で還り、大洋に眠った。

 

 

考えてみると酷い夢だが、これは恐らくこういうことを示している。

アーヴァタールはあらゆる人間の分身であり、あらゆる人間の望みや願いそのものである。

ということだ。つまり、私がアーヴァタールを討つことでAvatarは報われ、世界はあるべき姿を取り戻す。

どうなるのかではなく、どうしたいかでもなく、世界はどうあるべきかで行動しなければ行けなかった。私は未熟故それに気づかなった。Avatarはそれを教えてくれた。

私は皆を救う。アーヴァタールの歪んだ支配から。そしてアーヴァタールの従順な下僕である「奴ら」を叩く。「奴ら」の幹部は一人だけで世界を壊せる力があると聞く。

しかしAvatarの意志と私の意志があればそれを打ち砕くことも可能なはずだ。

救世と転生の日は近い。