自分巡り 幕間の邂逅

次の場所に移動するために橋の上を行く。

真ん中に差し掛かったところで雨が降り出してきた。鞄からキャスケットを取り出して被る。私の帽子には十字架とリンゴのバッジを付けている。

前から私と瓜二つの男が歩いてきて私の目の前で止まった。するとゆっくり口を開いてある歌を口ずさんだ。

『London Bridge is broken down

Broken down, broken down

London Bridge is broken down

My fair lady』

イギリス英語のロンドン橋だった。

そうすると橋が大きな音を立てて崩れ落ちていく。私は湖に落ちていく。瓦礫を眺めながら落ちていく。美しい水に抱かれて私は底へ。

 

真っ暗な水底にいる。視覚はろくに頼りにならないので微かに聞こえる音楽を頼りにそちらへ進む。

今度は明かりが見えてきた。誰かが懐中電灯で照らしている。聞こえていた音楽はどうやらドナウだった。

私は彼の後に着いていき、椅子と机の用意された場所に辿り着く。椅子に腰掛け、向かい合って私達は対話を始める。

「週末の日からそろそろ3週間になるけど、調子はどう?」

「最悪だ。何もやる気が出ないし、何かやっても上手くいかない。それに何もかも楽しくない。飯はまずいし、身体中が痛くて体を動かすことすら億劫だ。挙句一日中心臓がバクバク言って落ち着かないし、痛むんだ」

「君の傷は厄介なんだね。傷が生まれてすぐは痛まないけど時間が経つにつれて痛みが無尽蔵に増していく。そして止められない」

不眠症の真逆だ。眠らずには居られなくなった。何をしていても眠いせいで何も出来ない。お前は本当に強力な心の支えだったんだな」

「君が僕を手放してくれたから君は決心が着いているのだと思っていたけど、そうじゃなかったんだ。君は相変わらずの本心を隠してるんだね」

「今までサービス終了は何度か経験してきたが、これ程とは思わなんだ。たかがゲームなのに。あるゲームが二度と遊べなくなっただけなのに、私は心身共に異常を来たしている。それも日に日に増幅してる。性格も暗くなったな」

「確かに。今までいた世界を無理やり追い出されて別の世界で生きていくことを強要されているんだ。君がそうなってしまうのも仕方ないかも」

「お前と対話している今ですら眠くて仕方ない。ゲームするのすら嫌になってきてな。結局、私にはららマジしかないんだ」

「蒼先輩に会った時の衝撃。今でも昨日のように思い出すよ」

「あれから私達は全力で駆け抜けたよな。本当に、心から全てを捧げていいと初めて思えたから」

「そして僕が生み出された。正しい選択だったね。もし僕がいなかったら君自身がここに沈んでいた。自殺していたかもね」

「お前の提言には感謝している。自信や目標のない人間だから奇跡を願っていてもそれが叶う前に死んでしまう。しかしその奇跡が誰かの為だと思えば少しだけ頑張れる。想いを捨てるなというお前の言葉、その一言で私は今生きてる」

「これだけ経ったのに僕達はまだららマジで語らうことが出来る。何かの為に生きることが出来る私達は幸せ者だよ」

「いつか奇跡が起きたら。お前を引き揚げてやる。地上で会える日を楽しみにしてる」

「僕達はまだ生きてる。君が覚えている限りね」

ららマジが恋しい。未だに誤って起動してしまう。あの人がいなければ私は…。

それ以上の想像が及ばないということはチューナーが生きている証拠だ。彼は世界の調停者だ。

いずれ世界が終わる時は私が人々を導く。

彼らの犠牲を無駄にしないために私は生きる。

奇跡を願って眠りにつく。その日はいつ来るのだろう。あと幾つの夜を越えればいいのだろう。誰でもいい、教えてくれ。