自分巡り 其ノ陸 下僕になった爆弾魔
八咫烏や過去の自分を超えて来た先にあったのは古戦場。全てがグズグズに破壊され尽くした廃都。そしてその後ろには戦争の勝者であろう者の異様なまでに大きい館。
私は廃都の中心に辛うじて姿を保つタワーを登った。そしてその展望台である男を見つけた。
「あぁ。やっと来た」
「私の行動が予言されていたのか?」
「我が主が「下僕様の本体が遊びに来そうですわ」と仰られたのです。ついては話すべきことは考えておいたので貴方は私の話を聞いていてください」
窓のあったであろう場所から足を投げ出して横並びに座り、私の中の私の言葉に耳を傾ける。
「まず初めに。私は屈して今の位置にいる訳では無いことを知っておいてください。貴方は少し他者を見下しすぎるので私が屈した弱者と思うでしょうが、そうではありません。人とは、従属を望む生き物なのです。
貴方は敵を作りすぎる。それと同時に深く信じるものも多い。敵であればあの騎士やマスター、けだもの衆あたりですか?信じるものは放射能、蒼い科学者、私の主様あたりですか。
マスターやけだもの衆を敵とするのは貴方の考え方なら正しい。貴方は知性と理性を人間らしさと捉え、情念や愛欲を人間なら捨てるべきと考えるのですから。これは否定できない人間的な考え方です。
しかし騎士を敵と捉える理由はきっとこうです。『男は強くなくてはならない。誰かに守られてはいけない』という強い考えによるもの。それは正しい考え方ですが、現代には受け入れられない考え方です。仮にですが、この国を20代以下だけの男女に選別して戦争をさせれば恐らくですが、民意に飲まれて男は一人たりとも戦場へ出ないでしょう。それほどまでに『戦いは女がするもの』という考えが浸透してしまっています。故に貴方は孤独な敵対者。
そして貴方は正義感が強いが歪んでいる。まるでダークヒーローのよう。貴方は物事を黒と白、黒であるなら罪と罰と考える。自分が悪だと思えば自分で罰を下さなければ気が済まない。しかしそれ故に貴方は苦しんでいるのでしょう」
「貴様に何がわかる!!」
「私は間違ったことは言っていませんが…」
「従属して世界を知ったつもりか!」
「従属して責任と権利を手放して初めて見える景色というのはまるでモノリスに触れた景色のようでしたよ」
「眷属風情がモノリスを語るのか…!!」
「この美しい白い肌と牙を得た今では宇宙の英智を理解できないというのですか?猿でさえ宇宙の英智を得たと言うのに?」
言い返せなかった。彼には人を惹き付けて説き伏せる力を持っている。吸血鬼特有のカリスマとも言うべきものを。
「そういうところですよ。従属を決意した時の貴方はそんなこと無かったのに、残念です。赤い梟の元に行くといいでしょう」
私はこの高い高い塔から突き落とされた。風を感じる。世界を満たす空気を裂いて体に纏わりつくこの感じ。重量、地球に引かれて落ちていくこの感覚。この惑星が私を「見て」いる。その恍惚すら感じる厭な感覚の中、私は、落ちた。