賢王はかく語りき

ここは私の心の中。あらゆる有り得ない事象が再現・可視化される場所。

 

私は歩いている。どこを?

灰色の街だ、湖が印象的な。なぜ?

過去の残滓を拾い集めなくてはならない。如何にして世界の扉を開いた?

創造主は世界の扉を開いた。それは何故だ?

新たなる魂の目覚めだ。

 

私は歩く。残滓を求めて。歩き疲れると、湖畔のベンチに腰掛ける。それは誰でもすること。

私のように、この閉じた世界への執着を辞められないものは沢山いる。私が休んでいる間にも、彼らは残滓を探している。座る私の目の前を人はまた往く、また行く。

私の隣にある老人が腰掛ける。顔のない、風変わりな爺さんだ。しかしそれは私のような人ではなくて、私の心から出でし幻影。

そして老爺は手をかざすと、行き交う有象無象を消して見せた。私がそれに驚いていると彼はニヤリと笑って(顔はないが、そのように視えた)言った。

「お前はここが共有された世界だと勘違いしている。この世界は一人一人違う世界で、多くのものがいるとお前が認知し、幻影として反映しているだけだ」

そしてまた有象無象の幻影を表した。そして今度は世界に色を与えた。

「貴方はまさか、神話に語られし賢王か。バビロニアンの頂点に立つソロモンか?」

「正しいが、誤っている。私はお前の心から出でし者。賢王ソロモン的要素とユダの要素を抱えたユダ・ソロモンとでも言うべき心の創作物だ」

世界の色を奪った彼はそう言った。

 

「成程。お前が、お前たちが紡いできた物語は終わりを迎えることなく終焉を迎えた。そしてその物語が新たな形で生まれる。それにお前は葛藤している」

「私はどうすれば」

「ソロモンとして助言しよう。かつてあったものを作り替えることは難しい。死しているなら尚更だ。ならばその新しい形を本来の姿と錯覚せよ」

「ユダとして助言しよう。全てはお前の望み通りにはならぬ。期待せず、それを受け入れる覚悟をせよ。新しい形がかつての形と違うなら、お前の嫌う形になるなら、全て燃やしてしまえばいい」

 

「悩め、若人。正しい答えは存在しない。

しかしお前はあの醜い者達を受け入れ、世界に反映した。それを成したお前なら如何様にも世界を変えられよう」

「無理だ。私は彼らを受け入れられない。受け入れざるを得ないだけだ。私が彼らを世界の者として認知するなど、有り得ない」

「ではお前を孤独にした言葉は何だ」

「『無理』だ」

「お前を内向的な弱者にした言葉は何だ」

「『有り得ない』だ…」

 

 

いずれ分かるのかもしれない。答えは向こうからやってくるのかもしれない。新しい春を迎え、星の命が芽吹く時、私は何か見つけられるだろうか。そして私はその時。

自分を折って、ソレを受け入れられるだろうか。